2019年09月26日
社会・生活
研究員
小野 愛
2019年初に始めた趣味がある。一眼レフカメラによる自然を対象にした写真撮影だ。すぐに、伝えたいことの表現の難しさに直面した。文章は思いつくままに書いても、後で読み返して書き換えることもできる。しかし、写真はそう簡単にはいかない。一度シャッターを切ると、画像修正ソフトを使用しても伝えたかったイメージに近づけていくことは難しい。
もっと見る人の心に響く写真が撮れるようになりたい。そう願い、2019年9月8日にリコーイメージング主催のペンタックスリコー・フォトスクール「初めてのネイチャースナップ」に参加した。
本講座は2部構成。午前中に都内の撮影ポイントを散策しながら思い思いに撮影し、午後には撮影した写真についてリコーイメージングスクエア新宿でプロのカメラマンから講評をしてもらう。講師は自然写真家の小林義明氏である。
(提供)リコーイメージング
小林 義明氏(こばやし・よしあき)
1969年東京生まれ。東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ東京)を卒業後、フリーの写真家として活動。小さな自然から広大な景色、花や野生動物など幅広く自然の優しさを感じられる作品を発表。現在は北海道に在住して「いのちの景色」をメインテーマに撮影を続けている。
写真展は「光の色・風の色」、「いのちの景色 釧路湿原」など多数開催。写真集は「いのちの景色 釧路湿原」など。2017年4月にリコーイメージングスクエア新宿で写真展「光の色・風の色2」を開催。
公式ホームページhttps://www.nature-photo.jp/
当日午前9時半、今回の撮影ポイントである新宿御苑に到着。参加者は12人で、ほとんどが初参加であった。台風が近づく中で暑さが厳しく不安定な天候だったが、幸運にも青空に恵まれた。
小林氏の誘導の下、御苑内の森へと歩を進めると、大都会の真ん中なのに、一気に植物や生き物の気配が濃密になった。終わりの集合時間さえ守れば、撮影場所は各自思い思いに見つけてよい。このスタイルは「(撮影者の)個性をどう表現するか」を大事にしている小林氏の哲学に基づく。「こんなの撮ってもいいのかなと思っても、自分で撮りたいものをどんどん撮っていくことで写真に個性が出る」と教えてくれた。
初心者の筆者は、小林氏の周りで撮影することを選んだ。思ったように撮れない時にどうすればいいのかを的確に教えてもらえるからだ。撮影直後にカメラのモニターをのぞきながら一緒に仕上がりを確認してくれるので、アドバイスをその場で活かすことができる。疲れたら休憩しながら小林氏の撮影スタイルを見ていると、カメラの構え方や被写体への近づき方などもライブで学べる。
撮影の様子
(撮影)筆者
ノコギリクワガタを撮影する小林氏
(撮影)筆者
花びらの間に隠れる小さなハチや、沼地で水を吸うチョウなどにレンズを向けながら森を通り抜けた後、御苑の温室に到着。その中では熱帯の鮮やかな花が咲き乱れ、被写体探しには困らない。しかし、難しいのは温室の人工的な背景の映り込みだ。どうすれば解説パネルや金網を避けられるか、頭を悩ませる。でもそれもまた撮影の楽しみになった。
温室を出て集合場所に向かう頃には、外は土砂降りになっていた。来園客が逃げるように走り去る中、撮影グループは悪天候も好機と捉えてシャッターチャンスを逃さない。雨足が強まるほど歓声が沸き、植物から滴る水や、水たまりで弾ける泡までもが撮影者を引き付けた。現行のPENTAX一眼レフカメラは全機種防滴仕様だから、こうした悪天候でも問題なく撮り続けることができた。
午後の部は、御苑で撮影した写真の講評だ。それぞれ自分が撮影したものの中から3点を選んでプロジェクターに投影し、小林氏からコメントをもらう。午前の撮影会がメインイベントだと思っていたが、講評の時間もそれに引けをとらないほど面白いことを知った。
講評の様子
(撮影)筆者
大画面に映る写真は、カメラの小さなモニターで見たものと雰囲気が全く異なった。微妙な色彩からピントの甘さ、余分なものの存在まで、良くも悪くもカメラのモニターではよく見えなかったものがはっきり見えてくるのである。
他の参加者の写真を見ることからも、多くの知識が吸収できる。同じ空間を歩いてきたはずなのに全然気が付かなかった被写体が捉えられていたり、同じものを撮っていても写真の印象が大きく違ったり、様々な気付きがあった。
講座全体を通じて、小林氏は「ネイチャースナップ」のポイントを以下のようにまとめてくれた。
①その時に良いなと思ったものを確実に撮っておく
ピントに迷ったらピントを変え、露出に迷ったら露出を変え、レンズに迷ったらレンズを変え、納得するまで何枚も撮る。その時の自然はその瞬間でしか見られない。
②自分の目線に自信を持つ
何を被写体として捉えるかは、撮影者の興味によってそれぞれである。よく観察して少し視点を変えると色々な被写体を見つけることができる。被写体が見つからなくてもあきらめないで探すことで自分の目線を磨ける。また、マクロ写真(被写体に接近して撮影する)はちょっと動くだけで角度や背景ががらりと変わり、被写体をより良く見せることができる。
③たくさん経験を積む
自分の目で見に行くことを重ねると、被写体の動きなどを過去の経験から予測できるようになる。撮影直前に撮りたいイメージをもつことが大事。
④ゆっくりとしたペースで動く
速く動くと被写体に気付かずに通り過ぎてしまったり、生き物が逃げ出したりしてしまう。
次回の「初めてのネイチャースナップ」講座は2019年12月1日に開催される。近年は地球温暖化の影響により、師走でも新宿御苑で鮮やかな紅葉が撮影できるかもしれない。生き物の動き方や日光の射し込み具合など自然の状態は時々刻々と変わってくる。本講座では、プロのカメラマンからその場その場で的確なアドバイスを受けられる。実際に、複数回参加されている方は「来るたびに新しい発見がある」と話していた。その瞬間にしか撮れない個性的な写真を撮りに新宿御苑へ足を運んでみてはいかがだろうか。
「初めてのネイチャースナップ」(12/1)の詳細、お申し込みはこちら
http://school.ricoh-imaging.co.jp/rim_school/2019/09/lesson-3.html
当日の集合写真(新宿御苑)
(提供)リコーイメージング
【筆者の写真に対する講評結果】
ミズヒキ
良い点=シンプルな構図で被写体の形を活かしている。
改善点=アリ(矢印)にもピントが合えば、ミズヒキをアリの歩いていく「道」として表すことができた。
改善方法=横に伸びるミズヒキとカメラを平行に構え、アリも含めてピントを合わせる。
ジョロウグモ(大きい右がメス、小さい左がオス)
良い点=真横から撮ることでいかにも「虫」という感じがなくなっている(=見る人の抵抗感が弱まる)
改善点=余分な空間が多く、クモの巣の糸の見せ方が弱い。
改善方法=もう少し近づき、撮影範囲を狭める。また、C-PLフィルター*を使用すると、光反射による葉の白を抑えられて背景が暗くなるため、糸を目立たせることができる。
(*C-PLフィルター=レンズに装着して回転させることで光の反射が抑えられる)
フウリンブッソウゲ(コーラル・ハイビスカス)
良い点=花の房の背景が暗いので、特徴的な房の細部がよく表わされている。
改善点=縦の構図にしていれば垂れ下がる花の形をより強調でき、左上の光を避けることもできた。
改善方法=カメラを縦にして花のもっと上の部分まで撮影し、背景の反射光も避ける。
【小林氏による写真】
朝露のアサガオ
水を飲むクロアゲハ
シベが特徴的なランの一種
【当日使用機材】
小林氏
カメラ=PENTAX KP
詳細http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/kp/
ズームレンズ=smc PENTAX-DA★60-250mmF4ED[IF] SDM
詳細http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/lens/k/telephoto/smcpentax-das60-250/
マクロレンズ=smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
詳細http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/lens/k/macro/smcpentax-dfa-macro-100/
魚眼ズームレンズ=smc PENTAX-DA FISH-EYE10-17mmF3.5-4.5ED[IF]
詳細http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/lens/k/wide/smcpentax-dafish-eye-10-17/
筆者
カメラ=PENTAX K-50(生産終了品)
詳細http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/k-50/
ズームレンズ=smc PENTAX-DA 18-270mm
詳細http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/lens/k/telephoto/smcpentax-da18-270/
小野 愛